「手術は一応成功しました。しかし再発の危険性もない訳ではありません。」と医師に告げられたがん患者さんの気持ちはいかがなものでしょうか。「これでがんの恐怖から逃れられた」「やっと安心して暮らしていける」と思える人は実は少ないのです。
現実には、みんなそのときから「再発」という時限爆弾を背負って生きていかなければなりません。
私は消化器外科医として外来患者さんと接してきました。がんの手術を無事に乗りきった人、何とか手術だけは受けられた人など、様々な患者さんを目の当たりにしてきて痛切に思うことがあります。なぜ、私はこの人たちのがんが再発してから治療するのだろう。なぜ、再発ばかりを探してそれを未然に防ぐことが出来ないのだろう。
考えてみれば、高い安全性と引き換えに、ただ決められた治療を決められた手順で実行してきました。国や学会で確立された最新の治療法を「医学」と信じ、保険診療のみが「医療」と信じて治療にあたってきました。
しかし地域の開業医として10年を過ごした今、私は少し違ったアプローチが必要とされていると感じています。
患者さんの「病気」を診ることも大切ですが、患者さんの「Life(生命・人生)そのもの」と向き合い、不安を和らげ、ともに病気に対峙する盟友のような「かかりつけ医」でありたいと思うようになってきたのです。末期がんの人の不安を共有し痛みを減らすことに力を注ぐこと、切除はしたものの将来再発の不安を背負う人とその重荷を共有すること、そして患者さんに寄り添いとことん患者さんとともに歩んでゆくことこそ、現代の医療に足りない部分であり、今もっとも必要とされている「医療」であると考えています。
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